ロートアイアンとは
ロートアイアン(Wrought Iron)は本来ヨーロッパの文化として発展して来たものです。
鍛鉄、練鉄と訳されていますが、今日の工業化の時代以前にあっては、
鉄の製品はすべて手仕事による鍛造によって形が造られてきました。
こうした時代、生活の道具や武器は勿論のこと、すでにヨーロッパでは建築の
分野においても手工芸鍛造による装飾エレメントが発達したのです。
今日では鉄の加工技術は格段に進化し、その殆どが工業製品です。
しかしヨーロッパで発展した鉄の装飾デザインの価値観は、その後も
ヨーロッパ文明の伝播と共に世界的に広がり、現代においてもロートアイアン
として受け継がれているのです。
ロートアイアンは伝統的なヨーロッパの手工芸鍛鉄によるデザインの表現です。
現代においてもその基本はもとより手工芸です。
工業技術の合理的な生産への活用は当然ですが、デザインの表現と
質的な価値を造り出すためにはロートアイアンに対する本質的な理解と、
熟練した技術がどうしても不可欠です。
ロートアイアンは決して単に古い時代の製作方法の再現ではありません。
手工芸鍛鉄は人類の物造りの原点でありますが、中世に生まれ、
近世、アールヌーボ、アールデコの時代を経てロートアイアンは、
さらに時代の価値観として生命を与え続けているのです。
『Wrought Iron』と云う英語ですが、『Wrought』は『work』動詞の過去、
過去完了の古い活用形です。
『Wrought』自体、加工した、鍛えた、細工したと云った意味があります。
『Wought Iron』 は人間が鉄に働きかけて物を造って行くイメージを
持った英語には珍しい言葉ではありませんか。
ロートアイアンは本来オーダーメイドの世界です。
ロートアイアンは鉄の棒材、板材などソリッドの鉄材を炉で熱して軟化させ、
色々な工具や治具を使って形を造りだします。基本的には鍛冶屋の仕事と似ていますが、
造るものは主として建築と生活の装飾品です。勿論、機能性は追及しますが
手仕事の表現と装飾性に特化していて本質的には工芸です。
イモノ(鋳造品)は溶解した金属を型に流し込んで造形する製法です。
ロートアイアンと紛らわしいところがあるとすれば、
それは本来ロートアイアンによって表現されたデザインをコピーしているからです。
ロートアイアンは設計上においてデザインの表現や構造上の必然性に合った
部材の質や強度を自由に選択できます。この点イモノより造れるものの範囲と
可能性は遙かに大きいと言えます。
ロートアイアンは「WROUGHTIRON」と書きます。WROUGHTは英語のWORK動詞の
古い形の過去、過去完了形です。人間が腕力で鉄に働きかけているイメージを
よく表現していると思いませんか。ロートアイアンでも同じものを量産する
ことはできます。しかし単純な量産ならイモノの方が効率的な場合もあります。
ここだけのもの、一つだけのもの、設置される施設のコンセプトに合わせた個性的な
デザインをお望みなら、それはもうロートアイアンに限ります。
オーダーは出来上がった製品を評価して買うのではありませんから何といっても、
メーカーのデザイン、設計、の能力が大きくものを言います。
先ずはその施設のコンセプトを的確にデザインする能力が第一です。
それにはロートアイアンの専門的な能力は当然として、当社では長年の蒐集と
研究によるロートアイアンのデザインライブラリーを駆使して
デザインコンセプトの策定を行います。
ロートアイアンのデザインは二次元的なグラフィックと違って、
画そのものが立体物として構造化される必要があります。
これはアートとしての絵でもあり、機能的な構造物でもある
ロートアイアンの大きな特色です。この画と構造を如何に一体のもの
として成立させるかが、ロートアイアンのデザインと設計の本質であり技術でもあるのです。
ロートアイアンを一口で説明すると、それは『グローバルスタンダードの工芸』です。
わが国には文明開化といわれた時代にタイルや煉瓦を始めとして、
西洋建築の技術や材料が少なからず導入されました。
それらの殆どがその後、国産の技術や建材として発展してきました。
ロートアイアンも当時必要な技術として入って来ていたと思われますが、
どうしたことか、その後わが国では産業として発展しなかったのです。
この原因の一つは、ロートアイアンがあまりにも純粋の手造りの仕事であったために、
その後のわが国の工業化の波に乗れる条件を備えていなかったとも言えますが、
当時は総ての製造業は当然手仕事であり、その後工業化に乗れなかった
ものでも文化の基盤に支えられたアート性の高いものは工芸になって
伝統産業として今も生き残っています。
当時のロートアイアンはわが国の文化の基盤を全く持たない
手仕事でしたから、今更伝統産業にも成れなかったのかもしれません。
それからするとロートアイアンは欧米では文化の基盤に支えられた立派な伝統産業です。
今から約35年前、私がロートアイアンの本格的な導入に取り掛かった
当時のコピーは『ロートアイアンと言う言葉をご存じ無いと思いますが』から
始まっています。戦後の日本は第二の文明開化とも言えます。
改めて西欧の文化、生活様式がどっと入って来ました。
誰もが海外旅行する時代となり、生活の文化もスタイルも
グローバル化が大きく進みました。今になって日本の
ロートアイアンもグローバルスタンダードの工芸産業として
復活したかのように見えます。しかしあまりにも時間のスピードが
速すぎてロートアイアンという言葉が今や独り歩きしかねないのです。
これは我々がロートアイアンの文化と伝統を持たない宿命とも思えるのですが、
私はロートアイアンが建材や商品の単なるカテゴリーの問題として
矮小化された理解に陥ることを恐れるのです。
ロートアイアンは有史以来の人間と鉄の関わりの原点から出発して、
十数世紀に及ぶ西欧の建築文化を支え近代の工業化時代をも生き抜いてきました。
今日は紛れも無く機能主義偏重の時代です。どちらかと言えば、
『姿かたちの価値観』に軸足を置くロートアイアンはむしろこのような
時代に出会うことによって、かえって大きな可能性の広場に引き出されようとしているのです。
『ロートアイアンで何が出来るか』これが次の命題です。
あらゆる工業技術を使っても、基本は手造りでアイデアを形にする、
アート性の表現と、勿論ファンクションも実現する。
これがロートアイアンの目指す可能性の世界です。
その為には今こそ正統なロートアイアンとは何かということについて、
ユーザーにも設計者にも流通の分野に於いても正しく理解していただきたいのです。
やっと日本の文化として根付きかけているロートアイアンなのですから。










